効率的に設計・製作を行うためのアドバイス
written by Dr.Jun Shinozuka 2006-

効率的に設計を行うためのアドバイスを述べる.

設計製作で最も悪い例は,
  1. 図面を見ても,寸法が記入されていないなどで,どのように加工するのかが分からない.
  2. 加工中に部品が組みつけられないことが分かった.
  3. 組み立てたら,うまく動作しなかった.
などである.このような事態は加工期間を著しく長くし, 効率的に製作を行うことができない. そうならないために,能率的に設計・製作を行うためには, 下記の工程の順番で作業を行うことを薦める.
  1. ポンチ絵の作図
  2. 組立図(機構図から組立図)
  3. 部品図(組立図から部品図へ)
  4. 加工
  5. 組み立て
設計する時に,いきなり定規を使ってしかも部品図を作成する 傾向が見受けられるが,これは間違いである.

まず,鉛筆でポンチ絵を描くことから始める. ポンチ絵は,自分のアイデアを具現化する最初の一歩であり, イメージをより具体的にするための最初の一歩である. ポンチ絵を描くときに,消しゴムを使ってはいけない. 描き損じたら,新しい紙に描き直す. 何枚も何枚もポンチ絵を描いているうちに,イメージが より現実的なものになるからである.
次に,ポンチ絵をより具体的に,綺麗に描く. 3次元的な物体のイメージと動作状況が分かるように,アイソメ図で描く. ここでも消しゴムや定規は使わない.
その後,イメージが具体的になった時点で,初めて,定規を使い, 原寸大の大きさで,機工図やアイソメ図を描く.原寸大で描くことが 肝要であり,ネジやボルトもそこに描画する. これにより,部品の取り付け状態が把握できるので,後の失敗が大きく 低減される.
次に,上記の図に寸法を入れる.これが組立図である.
組立図ができた後に,組立図を参照して各部品の部品図を作成する.

上記の工程より分かるように,部品図は図面作成において,最終作業であり, 組立図があれば,誰でも作成できるものである.
ここで,図面はCADを使用すると修正が楽である. なお,CADは図面の修正と管理を容易にするものであり,CADが図面を 作成してくれるわけでは無い. CADは文章作成で言えば,ワードプロセッサーと同じである.WORDが文章 を自動で作成してくれるわけは無い!
最終の部品図まで作成した後でも,設計変更は容易に起こり得る. CADで描いた図面は,手書き図面に比べて綺麗で,リアルに見える図面なので, 1回作成した図面で完璧であると思いがちであるが, そうでは無いことを肝に銘じるべきである.



設計・製作の進め方の例
効率的に設計・製作を進めする例を示す. 例として,高さ調整装置を開発する場合を示す. なお本例は,架空の物であり,この例のように作業を進めれば, 効率的で失敗の無い製作ができる,という指針を示すものである.

仕様を決める(一番重要な個所である)
まずは,アイデアを箇条書きにしてみる.所謂,仕様を書き出す.
  1. 手動で操作できる昇降機を作る
  2. 動荷重は1000N程度
  3. 高さ調整範囲は400mm程度で, 任意の位置の高さで位置決めできるもの
  4. 仕様を満たすもので,剛性が高く, 部品点数は少なく,加工が容易な機構とする
ポンチ絵を描く
鉛筆でラフデッサンする.消しゴムは使わない. 仕様を満たす物で,作品イメージをできるだけ具現化するよう, 何枚も何枚も,いろいろな構造の物を描いてみる. 機構の様子も描画する.ポンチ絵を何枚も描き,十分に検討を行うことが最も重要である.


イメージを具現化する上で,最適であると思う形状を,より具体的に 把握するため,3次元的に描く.

機構図を描く
物の形状が決まったら,定規を使って,機構図を描く. できるだけ原寸大で描く.この時,強度なども検討する. ネジやボルト,ワッシャーなどもできるだけ詳細に描画すると, 後の工程が楽である.

原寸大のイメージをより具体的に明白にするため,3次元の図を描く. 3次形状を一目で把握できる図に,等角投影図(アイソメ図)がある. アイソメ図は,水平線からそれぞれ30°傾けた基準線を用いて,下図の ように図を描画するものである. 正面図や側面図では,3次元形状を把握し難いので,アイソメ図は非常に有効である.

組立図を描く
機構図に寸法を入れれば,組立図ができる.

部品図を描く
組立図を参照し(寸法が既知なので,作業は楽である),部品図を作図する. 部品図は,音楽で言えば,楽譜である.楽譜は誰が読んでも,同様なメロディーを 奏でるためのものである.部品図も同様で,部品図を見れば,誰でも同様の部品を 加工できるものでなければならない. ケガキや加工を行うために必要な基準面が,どこにあるのかが 明瞭に分かるように,寸法を記入しなければならない.

各工程の時間配分の目安
以上のように,設計から加工までの各工程に費やすべき時間配分の目安は,下図のように なることが分かる. 最も多くの時間を必要とする工程は,ポンチ絵である(イメージの具現化). 実際の加工や組立には大した時間を費やさない. 加工や組立で莫大な時間を費やすのは,ポンチ絵作成の段階で,検討が不十分である からである.